今回はイスラエルとシリアの国境地帯、ゴラン高原の中にあるドルーズ派の人が住む街「マジダルシャムス (Majdal Shams)」に行ってきました。耳慣れない場所ですが、特にテルアビブやエルサレムなど、イスラエルの主要な観光スポットは既に押さえた方向けに、ややディープな内容をお届けします。イスラエル観光を考えている方はぜひどうぞ。
ドルーズ派(ドゥルーズ)とはどんな人々?
ドルーズとは、もとはイスラーム教から派生したと言われている宗教で、このグループに属する人々を指します。ドゥルーズという表記もありますが、この記事ではドルーズで統一します。ドルーズ派については、こちらのブログ記事にも書いてますのでよかったらどうぞ。
ドルーズは世界中に住んでいますが、特にシリアやイスラエルに多く住む人々です。イスラエルだと「ダリヤト・アル・カルメル (Daliyat al Karmel)」と「マジダル・シャムス (Majdal Shams)」の2つがドルーズの街として特に有名です。
- ダリヤト・アル・カルメル (Daliyat al Karmel) :ハイファ近く
- マジダル・シャムス (Majdal Shams):ゴラン高原
今回は、辺鄙な場所に行きたいということで、ゴラン高原にあるマジダル・シャムスにいってきました。(筆者は国境地帯が大好きです)
シリアとの国境地帯にあるゴラン高原へ
そもそもゴラン高原は、イスラエルとシリアの国境にある高原地帯です。今回はナザレから出発していってきました。ナザレからは距離としては約100km、所要時間は車で大体1時間半~2時間でした。
路線バスも一応ありますが、乗換えが多く難易度高めです。レンタカーや友達の車があればベストですが、団体ならツアーバスをチャーターする手もあると思います。
ゴラン高原はその名の通り高原地帯です。標高が約2800mのヘルモン山 (Mt. Hermon)もあります。中東イスラエルは乾いた土地というイメージが強いかもしれませんが、ゴラン高原は自然豊かで緑が多い土地です。日本で例えると、新潟の湯沢高原・栃木の那須高原のような雰囲気だと思います。
ゴラン高原はシリアとイスラエルが領有権を争っています。詳細は省きますが1967年の第三次中東戦争でイスラエルが占領してから、イスラエルの実行支配下に置かれました。
ゴラン高原へ向かう道中は美しい高原が続きますが、ところどころに地雷注意の看板があったり、場所によっては塹壕が残っていたりと、当時の面影を垣間見ることができます。
ゴラン高原を抜け、シリア国境のマジダルシャムスへ到着
ゴラン高原を車で抜けると、シリアに最も近い場所にマジダルシャムスがあります。山の斜面に家が立ち並ぶのが特徴で、インパクトがあります。
ドルーズは閉鎖的なコミュニティで、外国人やドルーズ以外の人々は住んでいないそうです。小さなコミュニティだからこそ、存続のために閉鎖的にならざるを得ないのでしょうか。
あと、雲に手が届きそうなほど近い。そして天気が変わりやすいです。雨が降ってきたと思ったら、数分後には晴れ間がでてきたりと、さすが山という感じでした。
人が少なく山しかないのでリラックスできますが、逆に言うと都会的な生活はありません。映画やショッピングモールのような娯楽もほとんどなかったと思います。数日滞在するくらいが丁度良さそうでした。
食事についても、21時になると閉まるレストランがほとんどなので、夕飯は早めに行くことをおすすめします。Uber Eatsのようなデリバリーもないので要注意です。
宿泊したホテルのオーナーも、「急病人が出たときは隣町まで急いで運転していかないといけないのが不便」と言っていました。
マイナスな事ばかり書いてしまいましたが、マジダルシャムスはイスラエル国内では珍しく雪が降ることでも有名で、冬には街全体が銀世界になります。毎年冬には、近くのヘルモン山にはスキー客が押し寄せる一大観光地になっています。
マジダルシャムスはシリア?イスラエル?
すでに書きましたが、イスラエル – シリア間の複雑な事情によって、学校や選挙など行政的にはイスラエルの管理下にありながらも、マジダルシャムスの住民の中には自分達のことをシリア人だと認識している方も多くいます。それこそがマジダルシャムスが有名たるゆえんで、筆者がここに来たかった理由でもあります。
いってみての感想ですが、年代が上の方ほど親シリアの傾向が強かったです。1967年まではシリアのコントロール下にあったのでまあ当然ではあります。お土産屋さんのおばさんは、自分のことをシリア人だといっていました。
なかにはイスラエルの市民権を拒否し、パスポートも持たない人もいるようですが、近年はイスラエル市民権の申請も増えてきています。あまり地元の人に詳しく聞けませんでしたが、こういった現状を受けて、彼らの中にはアイデンティティに悩む人もいるはずです。参考記事を見つけたので興味のある方はどうぞ。
パスポートがないと自由に国外に行くこともできないわけで、ドルーズとしてイスラエル・シリアの国境に住む人々の大変さを垣間見ました。イスラエルパスポートを選べば故郷のシリアを裏切ることになる。一方で、イスラエルにいながらシリアに忠誠を誓うとパスポートをもらえず、国民としての基本的な権利も享受できない。究極の選択です。
映画「シリアの花嫁」ではまさにマジダルシャムスに暮らすドルーズの人々が直面する葛藤が描かれています。2004年と古めですがおすすめの映画です。予告編のYoutube動画がありましたので紹介まで。
地元の人気レストランでアラブの伝統料理を楽しむ
宿にチェックインして一息着いた後は、ドルーズ文化に触れようということで、伝統的なアラブ料理が食べられるというレストラン、Alyasmeen Restaurantでランチをすることになりました。
どうやら地元でも人気店のようで、Google Mapレビューは驚異の4.7/5。これは後々知りました。どおりで美味いわけです。 もしマジダルシャムスに来ることがあればおすすめします。
料理の前に、洒落たテラスや伝統的な作りのレストランに感動してしまいました。
伝統的なアラブの家には中庭がありますが、そこを活かしてテラスにしているスタイルです。ドアや壁のツタもいい雰囲気を醸し出しています。
室内に入ると、おしゃれな模様をあしらった床が。
壁にはおそらくドルーズのものと思われる飾りもありました。輪廻転生を表しているのでしょうか。
そうこうしていると何品もの料理が運ばれてきました。
手前はサモサで中にチキンや野菜が入っています。奥の茶色の揚げ物はクッベといいます。1個がとても大きいので沢山食べられませんでしたが、非常に口に合います。
ご飯もあります。中東だと白米で食べることはまれで、スパイスで味付けをしたりこのように上に炒ったナッツをのせて食べることが多いです。あとは細くて短いパスタも一緒に炊くのがポピュラーです。
これはトマトベースのスープで中に豆が入っています。中南米でよく出てくる黒豆料理を思い出しました。ピリ辛で非常に美味です。
こちらはブドウの葉にスパイスで味付けしたご飯と肉を入れて煮た料理です。
アラブのソウルフードといっても過言ではありません。
これはマッシュルームのソテーです。上にサフランのようなものを散らして、色どり鮮やかです。
キョフテと呼ばれます。形は四角いですがミートボールのような食感。トルコにもありますよね。
中心部を散策し、いざシリア国境沿いのフェンスへ
腹ごしらえをして街に散歩に出ると、いたるところにドルーズの人々にとっての英雄の像や歴史を伝えるためのモニュメントがありました。
こちらの像は、当時この地がまだフランス植民地下にあったときに、街を守りフランス人を撃退したドルーズの人々の像です。
中心部を抜けて街の外れにくるとおまちかねのシリア国境沿いに来ました。雄大な山と草原を横切る鉄条網のフェンスは異様な光景です。
フェンスで区切られた向こうはシリアです。遠くの建物に、シリア国旗がはためいているのが見えました。ガイドによると、もともとマジダルシャムスは1つの村でしたがこのフェンスによってイスラエル側とシリア側に分断されてしまったそうです。
その結果、親戚なのに集まることができず結婚式を両サイドで別々にお祝いすることもあるそうです。目の前に見えているのに家族に会えない悲しさから、病気になってしまうお母さんもいたそうです。心が痛みます。
眼前には険しい山々がそびえたちます。近くにあるヘルモン山という山は「イスラエルの目」と呼ばれており、イスラエル軍が駐留し、常にシリア・レバノン国境の動きに目を光らせています。
2011年のシリア内戦時には、シリアから戦火を逃れてきた人々やデモで抗議をする人々ががイスラエルに入ろうとフェンスに押し寄せました。海に囲まれた島国の日本ではまず体験することのない日常ですね。
ゴラン高原の国境地帯について取り上げた参考動画も見つけたので良かったらどうぞ。
マジダルシャムスですることまとめ
今回は2泊3日の旅程で行ってきましたが、コンパクトな街なので1-2泊あれば主なスポットは見て回れます。
スポット/やること
- ドルーズ文化を体験
- シリア国境の見学
- チェリーやリンゴ狩り
- スキーなどのウィンタースポーツ
アクセス
- 車
- ハイファから:2.5-3時間
- ナザレから:1.5-2時間
- バス
- ナザレから複数回乗換え:3時間 (おすすめしません)
食事
- ファストフードや外資系のチェーンはほぼなし
- デリバリーサービスもなし
- 地元民によるレストラン一択です。ハンバーガーが思いのほか多かった気がします
言語
- 基本はアラビア語 or ヘブライ語メインです
- 英語がわかる人は限られます